電気工事士2026-07-28監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

電気工事士のキャリアと年収 ― 資格を武器に変える次の一手

この記事の要点

「電工二種は取ったんですけど、これだけで食べていけますか?」——先日、異業種からインフラ業界への転職を考えている20代の方に、面談の場でそう聞かれました。

結論から言うと、電気工事士の資格は「食べていくための土台」にはなりますが、「年収を伸ばし続けるための武器」としては単体では心もとない、というのが僕の答えです。第二種電気工事士だけを持って現場に入った人と、そこに施工管理や電気主任技術者の資格を積み上げた人とでは、5年後の年収レンジに大きな差が出ているのを、この業界のキャリア相談の現場で何度も見てきました。今日は電気工事士という資格の実像と、そこからどうキャリアを組み立てるかを、僕の体感値と公的統計、そして実際に見てきたケース比較を突き合わせながらお話しします。

1. 電気工事士とは何か ― 第二種と第一種で何が変わるか

電気工事士は、一般用電気工作物や自家用電気工作物の電気工事を行うために必要な国家資格です。第二種は主に一般住宅や小規模店舗など、契約電力が比較的小さい設備の工事を担当できる範囲、第一種はそれに加えて工場やビルなど、より高圧の受電設備を含む大規模施設の工事まで担当範囲が広がります。この「担当できる工事の範囲が資格によって法律で線引きされている」という構造が、他の技術職資格とは少し違う点だと僕は感じています。持っていなければそもそも現場に立てない、いわば入場券のような資格なのです。実際、住宅の3路スイッチ配線ひとつをとっても、無資格のまま作業をすればそれは法令違反になります。資格の有無が「できる/できない」を分ける、この境界線の明確さが電気工事士という職域の特徴だと僕は捉えています。

2. 資格取得のリアルな難易度 ― 合格率・実技試験・現場OJTの壁

一般財団法人電気技術者試験センターが公表している資料によると、第二種電気工事士の学科試験合格率はおおむね60%前後で推移しており、実技試験も含めた総合的な突破率は国家資格の中では比較的高い水準にあります。近年は年2回実施となり、受験者数は年間15万人前後で推移しているのも目安値として押さえておきたいところです。第一種になると受験者数は数万人規模に絞られ、学科・技能とも合格率はやや下がる傾向があります。ただし、僕が現場で聞く「本当の壁」は筆記試験ではなく、実技試験の複線図作成と、合格後に待っている現場OJTです。座学で覚えた知識と、実際の配線・結線作業のスピード感には距離があり、この差を埋めるのに半年から1年ほどかかるという声を、若手からよく聞きます。

これから第二種を目指す方に僕がよく伝えるのは、学習開始から合格までの現実的な時間配分です。筆記試験対策には平日1時間・休日2時間のペースでおよそ2〜3ヶ月、実技試験対策には候補問題13問を一通り複線図に起こして手を動かす練習に1ヶ月ほど見ておくと、無理のないスケジュールになります。ここで手を抜いて実技を「見て覚える」だけにしてしまうと、試験当日の時間配分で崩れる人が一定数いるというのも、僕がこれまで聞いてきた失敗の典型です。合格後も資格そのものに更新はありませんが、電気設備の技術基準は改定が入ることがあるため、現場に出続けるなら年に一度は業界団体主催の講習等で知識を更新しておくのが安全だと僕は考えています。

3. 資格単体のキャリアの天井 ― なぜ「持っているだけ」では年収が伸びないのか

電気工事士の資格を取得した直後は、資格手当がつくことで年収が一段上がる実感があります。しかし、そこから先は「経験年数を重ねても年収がなかなか動かない」という壁にぶつかる方が少なくありません。理由はシンプルで、電気工事士の資格そのものは「施工できる範囲」を示すものであって、「現場を管理できる権限」や「保安の責任を負える立場」を示すものではないからです。工事の実行者としての価値は現場で確実に評価されますが、それだけでは会社側からすると「代わりのきく人材」の枠に留まりやすい。ここが年収天井の正体だと僕は考えています。

この段階でよく見る失敗パターンが二つあります。一つは、資格取得後の3〜5年を「今の現場に慣れること」だけに使ってしまい、次の資格の勉強に手をつけないまま経験年数だけが積み上がっていくケース。もう一つは、逆に焦って畑違いの資格(例えば施工とは関わりの薄い管理系資格)に手を出し、実務との接続が弱くて評価に結びつかないケースです。僕の体感では、伸びている人ほど「今の現場経験の延長線上にある資格」を選んで積み上げています。焦って手を広げるより、今いる現場で「次に何が求められているか」を上司や先輩に率直に聞いてみることの方が、遠回りに見えて近道になることが多いです。

4. 次のステップ ― 電気主任技術者・施工管理技士への接続ルート

電気工事士としての現場経験を積んだ後、多くの人が次に選ぶのが電気主任技術者(電験)か施工管理技士のどちらかです。電験は設備の保安管理という「守る側」の専門性、施工管理技士は工事全体を段取りし責任を負う「回す側」の専門性で、方向性が異なります。どちらに進むかは、現場作業を続けたいか、管理側に回りたいかという本人の志向で分かれることが多いというのが僕の体感です。目安として、資格・実務経験の積み上がり方によって年収レンジは次のように変わっていきます。

段階年収レンジの目安備考
第二種電気工事士のみ・実務2年未満300万円台〜400万円前後資格手当込みの水準感
第一種取得・実務5年前後400万円台〜500万円前後大規模設備を任される段階
施工管理技士を併有500万円台〜600万円台現場を統括する立場
電気主任技術者(選任資格)を併有600万円台〜保安の責任者として評価される段階

この表はあくまで僕がキャリア相談で見聞きしてきた範囲の目安値であり、企業規模や地域、業界(電力会社・工事会社・ビルメンテナンス等)によって幅があります。それでも「資格を掛け合わせるほど段階が上がる」という構造自体は、業界を問わずかなり共通していると感じています。

実際に見てきた3人のケースを比較すると、この分岐がより具体的に見えてきます。Aさんは第二種取得後、施工の現場作業をひたすら極める道を選び、実務8年目でも年収は400万円台半ばで足踏みしていました。Bさんは同じ8年目で施工管理技士を取得し、現場の統括ポジションに移ったことで年収は550万円まで伸びています。Cさんは実務経験を積みながら電気主任技術者(第三種)に挑戦し、選任資格者として評価されたことで年収650万円のオファーを引き当てました。三人とも入口の資格は同じ第二種電気工事士でしたが、「次にどの専門性を重ねたか」で数年後の景色がここまで変わるのを、僕は何度も目にしています。どちらに進むか迷ったら、「現場の段取りを組むのが得意か、設備を守る側の責任を負いたいか」という自分の志向を一度言語化してみることをお勧めします。

5. 転職市場での評価 ― 求人倍率と年収レンジの比較

厚生労働省の「職業安定業務統計」の職業分類「電気工事の職業」を見ると、有効求人倍率は建設業全体の平均を上回る水準で推移しており、事務職などホワイトカラー系職種の有効求人倍率が1倍前後で推移するのと比べると、需要の底堅さがうかがえます。老朽化した電気設備の更新投資、再生可能エネルギー設備の増加といった追い風もあり、現場を回せる電気工事士の希少性は当面下がりにくいというのが僕の見立てです。ただし、この求人倍率の高さは「未経験者を採用してでも人手を確保したい」という企業側の事情の表れでもあり、必ずしも高年収を保証するものではない点は冷静に見ておく必要があります。倍率の高さと年収水準は別の軸だと捉えるのが実務的です。

6. 独立という選択肢 ― メリットとリスクの現実

実務経験を積んだ電気工事士の中には、個人事業主として独立する道を選ぶ人もいます。元請け企業を通さずに直接受注できれば単価は上がりますが、その分、営業・見積もり・アフターフォローといった業務もすべて自分で担うことになります。僕が見てきた独立組の中で長く続いている人は、独立前に施工管理の経験を積み、現場全体を見る目を養っていたケースが多いという印象です。逆に、施工の技術だけで独立した人は、案件の波に収入が左右されやすく、繁忙期と閑散期の差に資金繰りが追いつかず、数年で会社員に戻る選択をした方も少なくありません。独立直後の年収は軌道に乗るまで会社員時代を下回ることも珍しくなく、僕の体感では最初の1〜2年は貯えを取り崩す前提で計画を立てている人ほど長続きしています。独立は「技術の延長」ではなく「経営の開始」だと捉えておくのが安全だと思います。

7. 資格取得後1年間で何をすべきか ― 具体的なアクション

ここまでの話を踏まえて、資格取得直後の1年間で実際に動いておきたいことを整理します。まず取得から3ヶ月は、現場で任される作業の幅を意識的に広げること。同じ配線作業ばかりを繰り返すのではなく、盤内作業や高所作業など「まだやったことのない工程」を上司に申し出て経験させてもらうのが近道です。半年を過ぎたあたりで、次に取る資格の候補を2〜3個に絞り、試験日程から逆算した学習計画を立てておく。そして1年目の終わりには、上司との面談の場で「次にどの資格を目指したいか」を明確に伝えておくことをお勧めします。会社によっては資格取得支援制度があり、宣言しておくことで受験費用の補助や勉強時間の確保につながるケースを僕は何度も見てきました。

(結論)電気工事士は「入口資格」、次の一手を決めてから取る

電気工事士の資格は、インフラの現場に立つための確かな入口です。ただし、そこで足を止めてしまうと年収は早い段階で天井にぶつかりやすい。第一種への挑戦、施工管理技士や電気主任技術者への接続、あるいは独立という選択肢まで、資格を取る前から「次にどこへ向かうか」を頭の片隅に置いておくことが、結果的にキャリアの伸びしろを大きく左右すると僕は考えています。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 電気工事士の資格だけで転職は有利になりますか?

未経験からインフラ業界に入る入口としては十分に有利に働きますが、年収を継続的に伸ばす武器としては単体では心もとないというのが実感です。第二種電気工事士は施工の実務経験を積む土台であり、そこに実務年数と次の資格を重ねて初めて年収レンジが動き出します。転職活動では「資格+どんな現場経験を積んできたか」をセットで語れるかが評価を分けます。

Q. 第二種と第一種、どちらを先に取るべきですか?

未経験からであれば、まず一般住宅や小規模施設の工事を扱える第二種から始めるのが現実的です。第二種で現場経験を積んでから、より高圧の工事や大規模施設を扱える第一種に進む人が多く、実務経験がないと第一種の免状交付要件を満たせない点にも注意が必要です。段階を飛ばそうとすると、実務との乖離で苦労する場面が出てきます。

Q. 電気工事士から電気主任技術者にキャリアアップできますか?

できますが、両者は求められる知識の性質が異なるため、独立した学習が必要になります。電気工事士は「施工の実務」、電気主任技術者は「設備の保安管理」が中心で、実務で培った現場感覚は活きるものの、法令や計算問題を中心とした試験対策は別枠で組む必要があります。この接続ルートを歩んだ人ほど、年収レンジが一段上がっているのを僕は何度も見てきました。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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